導入事例

対談「プロジェクトを振り返る」
今だから言える「あの時」のエピソード

株式会社デジタル・フロンティア 様/株式会社空き家総合研究所 様
「アバター遠隔接客サービス KSIN(けしん)」

リアルとデジタルの融合 ― 遠隔接客サービスの進化

デジタル・フロンティアの得意とする「デジタルヒューマン」に関わる技術を、社会的課題の解決に活用したいということが、KSIN開発プロジェクトの始まりでした。人口減少の一方で労働需要は維持される現状があり、また、ロボットへの代替の難しい業務も数多くあるなかで、人間を拡張するような製品・サービスによって多様な働き方を実現し、これを解決しようという試みです。「遠隔接客サービスKSIN」を使うことで、経験や知識が豊富な高齢者、子育て中の短時間かつ在宅勤務で働きたい方、障がいをおもちの方、勤務地と居住地が離れている方などの就業機会を創出し、ホテルや公共交通機関、大型商業施設、観光案内所、携帯電話販売店や金融・保険の相談窓口等、「人間による接遇が必要な現場」での社会実装を目指して開発されました。2024年にAI連携機能を実装し、現在では「スタッフを配置することが難しい現場」でのAIアバター単独での稼働、AIアバターによるヒアリング・一次対応を経ての有人オペレーター接続による業務効率化なども可能となり、より広い分野での利活用のご相談をいただいています。 しかしながら、KSINのベースとなる「フォトリアルな3DCGアバターを特別な端末ではなくてもリアルタイムで運用する」サービス実現のためには、いくつもの技術的課題がありました。Unreal Engineの実装を始め、KSINの開発から運用までの技術的課題を乗り越えることができたのはなぜなのか。プロジェクトチームのメンバーにお話をうかがいました。

※個人情報への配慮のため、写真の一部にイラストを使用しています。

  • 執行役員 経営企画・営業推進部部長 小北 哲平 様

    円谷フィールズホールディングス株式会社のグループ会社。国内トップクラスの制作能力とクオリティを誇るCGプロダクションにて、映像・ゲーム制作で培ってきたノウハウをもとに、非エンタメ領域における新規事業創出を担当。

    株式会社デジタル・フロンティア

    株式会社デジタル・
    フロンティア

  • 麻場 健司 様

    3DCGとAIの複合領域が専門。Unreal Engineのプラグインを多数開発・販売。自社で運営する演劇教室「劇ゼミ」に講師補佐としても関わる。

    株式会社空き家総合研究所
    空き家総研VRラボ

    株式会社空き家
    総合研究所

  • エンジニア G

    岩手県出身。2020年入社。3DCG、LLM、ロボットを絡めた開発を経験。企画・設計・実装・運用まで一貫してお客様に寄り添うのがモットーです。

    株式会社 ユニキャスト

  • 営業部 E

    茨城県出身。2024年入社。
    ロボティクス事業の営業担当。入社前は高校教員。あなたの「こんなこといいな、できたらいいな」をお聞かせください。

    株式会社 ユニキャスト

偶然から必然へ――CGアバター誕生の裏側

小北さん

CGのアバターを業務アプリケーションのUIとして使えないかと模索していた時、IT企業をいくつか検索していて、ユニキャストさんのロボティクス事業を知りました。ここならCGアバターを”実際に動かす技術”が開発できるのではないかと考え、相談したんです。

ただ、遠隔地から人の表情や動きを読み取って、これらをリアルタイムでアバターに反映させるには、Unreal Engineの利用が不可欠でした。そこで、SNSを通じて麻場さんの存在を知り、声をかけさせてもらいました。

麻場さん

私はエンジニアとしてプログラミングやシステム開発の経験を積んできました。Unreal Engineについては、ゲーム業界で使っている人は数多くいると思うのですが、今回のような業務アプリケーション開発に対応できる人材というのは限られているかもしれませんね。

エンジニア G

そうですね。Unreal Engineはもともとゲーム用の開発環境ということがあって、それを業務アプリケーションに利用し、顧客の要望に沿った形に実装していくのは、比較的まれなケースになるかと思います。私自身もUnreal Engineの実績が少なく、今回のプロジェクトを成功させるには、麻場さんのようなスペシャリストの存在が欠かせないと考えていました。

距離を越え、時代を越え──リモートで紡いだ挑戦の軌跡

小北さん

このプロジェクトが始まったのは、まさにコロナ禍の最中でした。東京、大阪、そして茨城。私たちはそれぞれ離れた場所にいながら、オンライン会議を通じて顔を合わせていました。このような形でIT企業と協業して新規事業を立ち上げること自体が初めての試みでしたので、当初は遠隔でプロジェクトを進めることに不安もありましたが、距離を問題とせず、それぞれの強みを活かしながら進められることにメリットも実感しました。また、もちろん、画面越しでは伝わらない熱量もありますので、月に1度は対面で膝を突き合わせての議論の場を設定していました。

麻場さん

ユニキャストさんと一緒に動き出して感じたのは、人の壁を感じさせないチーム力でした。エンジニアは職人気質の方も多く、コミュニケーションに難しさを感じることもありますが、ここではそんなことはありませんでした。率直に意見を交わし、技術を超えて理解し合える関係が築けました。おかげで、技術的な課題にぶつかっても乗り越えていけると信じられました。

小北さん

柔軟に対応してくださる姿勢には本当に助けられました。我々も、そして、ユニキャストさんも「受託開発」を中心に歩んできた企業。一方で、今回の取り組みは、それを超えて「自らのプロジェクトを世に出していく挑戦」でした。様々な課題はありましたが、KSINをリリースできましたので、これからはより多くの方に使っていただきたいと願っています。

営業部 E

当社のエンジニアの特徴として、フロントエンド、バックエンド、インフラと幅広い領域の知見と、顧客の要望に寄り添う視点があることが挙げられます。KSINに関しては、これからは営業に重きが置かれる局面ですが、お客様の声をサービスに落とし込むことで、よりよいものにしていきたいと考えています。

「KSIN」を生んだ信頼と挑戦──ユニキャストとの5年間

小北さん

「KSIN」を開発し、運用にまで持っていくには、ユニキャストさんの存在が欠かせませんでした。こちらの無茶なオーダーにも、単に「できません」と切り捨てるのではなく、提案を添えて受け止めてくれた。その姿勢には本当に救われました。私たちが「こういうことをやってみたい」と、まだ輪郭の曖昧なアイデアを口にしても、それを形に整え、実際に運用できる形にまで導いてくれる。あの積み重ねが、このプロジェクトを支えてきたのだと思います。

麻場さん

開発メンバーとして関わる中で一番感じたのは、コミュニケーションの取りやすさです。技術的には難題も多かったはずなのに、現場はいつも和気あいあいとしていました。議論しながら笑い合える雰囲気があり、だからこそ最後まで走り続けられたのだと思います。

エンジニア G

私にとっては、このプロジェクトは“人生を変えた”といっても過言ではありません。開発当初は技術的に行き詰まり、失敗も数えきれないほどありました。でも、デジタル・フロンティアさんは「お客様」でありながら、困難に直面した時、寄り添い、共に悩み、並走してくださった。その姿勢に励まされ、私自身も「どうすれば本当に人に寄り添うアプリを作れるのか」と、人間的な成長を含めて深く考えるきっかけをいただきました。

営業部 E

当社のロボティクス事業においては、「完成したモノをそのままお客様にお渡しして、その使い方はお客様自身で考えていただく」というケースはほとんどありません。お客様の課題に感じていることや実現されたいこと、現在の業務内容などをおうかがいして、ときには業務改善などのご提案をしながら、製品・サービスをカスタマイズしつつご提供しております。KSINは企業の受付・窓口、カスタマーサービス分野でのご相談の多いサービスですが、AI連携を実装したことで、マーケティングや人材育成などのAIエージェントとして今後はより広い分野でお使いいただけると考えています。開発チームの熱意を受け継ぎ、社会実装に努めてまいります。

小北さん

KSINにおいては、映画やゲームといったエンタメ業界の受託開発から、非エンタメの分野においてプロダクトを展開するというこれまでにない事業に挑戦しています。しかしながら、初めてのことであっても、ユニキャストさんとオープンにかつ誠実に対話を重ねることで、サービスをリリースすることができました。こうして約5年間もの間、伴走を続けられたこと自体が奇跡に近い。KSINがインターフェースとなって、人と人、人とAI・ロボットをつなぐことで、社会的課題の解決に役立つことを願っています。